トリニダード・トバゴが植民地だった頃のこと———
かつて奴隷だった黒人の不良少年たちが、バンドを組んで、アフリカの太鼓を叩いていました。それを「反乱を起こす気か?!」と恐れた宗主国のイギリスは、太鼓を禁止してしまいました。そこで彼らは、竹を地面に打ちつけて叩く楽器「タンブー・バンブー」を使う事にしました。竹の長さを変えて音程を作ったり、複雑なリズムアンサンブルも表現できました。でもやはり、不良たちが竹を地面に打ちつけながら歩くのを見て、「ちょっとちょっと!それって楽器じゃなくて武器だよね?!」と、これも禁止されてしまいました。じゃあ次はどうしようかー、と見つけたのが、ガラクタのような、ペンキやビスケットの缶、ラム酒の瓶やらバケツやら・・・。
これだね!といって、それらの缶を叩きまくります。これが、スティールバンドの始まり。
そして第二次世界大戦がはじまると、カリブ海で唯一の産油国トリニダード・トバゴに、米海軍の給油基地ができました。そこに落ちていたドラム缶に彼らが目をつけないはずがありません。このドラム缶を拾ってきて、音階が出るように工夫してできあがったのが、スティールパンの元になるピンポンと呼ばれる楽器です。最初は音数も少なかったのですが、ライバル・バンド同士が競い合って改良を重ねた結果、ついに今のスタイルのスティールパンが出来上がりました。
そうして出来たスティールパンは、多くの海外公演やカーニバルを経て、楽器や演奏技術もどんどん進化していきました。また、イギリス、アメリカ、カナダに移民として移り住んだ人達によって、世界中に広まっていきました。今ではトリニダード・トバゴの国民楽器として認められ、紙幣やコインにもスティールパンが描かれいてます。
スティールパンの表面処理には、クロームメッキ、パウダーコート、ペイントなどがありますが、それぞれ音色が違います。だいたい見た目通りの音がします。
見た目も音もキラキラしています。1度だけゴールドメッキを見た事がありますが、見た目も音もキラキラ度が2倍、いや10倍でした。
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クロームメッキよりも落ち着いた音がします。見た目もキラキラ度は低めですが、赤や青などのカラフルなパンもありますね。現地ではクロームメッキから、このパウダーコートに変わりつつあります。
素朴でやわらかい音がします。
メッキはサステイン(音の伸び)が長く、ペイントは短いということもあり、一般的には、高音の楽器はメッキ、ベースなど低音の楽器はペイントが向いていると言われています。(ベースにクロームメッキをしたら高い、というのもありますね。)もちろんそれが絶対ではなく、ペイントのテナーなども柔らかく味わい深い音がします。
楽器は、スカート(ドラム缶の側面)が短いほど高音で、長いほど低音になります。音域や音数は目安です。
テナーパン | 高音域でメロディを担当。スティールパンの中で一番よく目にするのがこのテナーパンですね。「ド」から始まるローテナーと「レ」から始まるハイテナーの2種類があります。音の配置は5度サークルになっています。ローテナーはC4~E6(29音)ハイテナーはD4~F#6(29音) | |
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ダブルテナー | 高音域。テナーパンよりも少し低い音域で、2個で1セットです。メロディーとハーモニーを担当。音の配置は、どう考えても独特。F3〜B5(31音) | |
ダブルセカンド | 高音域。2個で1セット。ダブルテナーと似ていますが、スカートが長い方がダブルセカンドです。メロディ、ハーモニー、バッキング、カウンターメロディなど、何でも任せたまえ!の花形パンなので、ダブルセカンドを使うソロのパン奏者は多いのです。音の配置はオーグメント。F#3~C#6(32音) | |
クアドロ・フォニック | 高音から中音域まで、いろいろなパートの補強をする、ダブルセカンドとダブルギターを合わせたような楽器。4個で1セット。音の配置はオーグメント。最近は日本でも売ってます。B2~B♭5(36音) | |
ギターパン | 中音域。ちょっと大きい、1/2サイズのドラム缶2個で1セットの楽器がダブルギター。おもにバッキングを担当。音の配置はオーグメントです。3個1組のトリプルギターもあります。C#3~G#4(20音) | |
チェロパン | 中音域。ギターと同じサイズのドラム缶3個で1セットなのが、トリプルチェロ。バッキングやカウンターメロディを担当。音の配置はディミニッシュです。4個で1セットのフォーチェロもあります。B2~C#5(27音) | |
テナーベース | 低音域。チェロと同じか、3/4サイズのドラム缶4個で1セット。シックスベースの倍音補強。音の配置はオーグメント。6個で1セットのシックステナベというものもあるようですね。F2~E4(24音) | |
シックスベース | 低音域。そのまんまのドラム缶6個に囲まれて踊りながら演奏する、見た目もド派手なパート。音、というよりも振動。体に響きます。バンドの大黒柱です。音の配置は5度。B♭1~E♭3(18音) | |
その他のベース | 本場トリニダード・トバゴには、さらに大きいベースパンがあります。セブンベースは7個で1セットのベースパン。ナインベースは9個で1セットのベースパン、軽自動車サイズ。トゥエルブベースは12個で1セットのベースパン、まるで船のようです。 |
P.H.I. | 「P.H.I.(Percussive Harmonic Instrument)」というエレキ・パン。音色をかえる事が出来るので、この楽器だけでパートを分けて、バンド演奏もできちゃいますね。 http://www.panadigm.com/gallery/PHI/ | |
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The E-Pan | もう1つのエレキ・パンはカナダのトロントの会社から出ている「The E-Pan」。ミッドセンチュリー感あふれるデザインですが、発売されたのは2009年です。ダブルセカンド、シックスベースもありますが、これ1つで様々な音が出せます。 http://napeinc.com/product.htm |
1つの音の右隣りに5度の音を置いていって、円形に並べたもの。ドの右隣りはソ、ソの右隣りはレ、レの右はラ、ミ、シ・・・となる。逆に左隣りは4度になるので、時計回りにド・ファ・シ♭・ミ♭・・・と並ぶ。
長三度の音(ドとミとソ#)を積み重ねていった、音の並べ方。
短三度の音(ドとミ♭とソ♭)を積み重ねていった、音の並べ方。
1つ1つが手作りのため、バンドによって独自の楽器があったり、同じ楽器でも音数や音の位置が違ったりと、それぞれが工夫して作られています。なので楽器に統一された規格というものがなく、唯一テナーパンだけが、どのバンドでもほぼ同じ仕様になっているようです。